2020年6月1日
#世帯主ではなく個人に給付して──10万円給付問題で立憲民主党議員が改めて考えた、「世帯単位」を乗り越える政治とは?
#世帯主ではなく個人に給付して──10万円給付(※)の振り込み先が個人ではなく「世帯主」だと明らかになった4月下旬、SNSではこのハッシュタグが注目を集めた。より多くの声を集めようと始まったのが、インターネット上で立憲民主党の女性自治体議員有志が始めた「あなたは10万円を受け取れそうですか?アンケート」だ。4月23日からSNSで拡散し、記述式の質問が中心で手間がかかるにもかかわらず、5月20日までに1,937もの回答が集まった。
10万円給付だけでなく、社会保障などの分野で「世帯単位」をベースにした制度は多く、その問題点は長年指摘されてきた。いわば「古くて新しい問題」だ。世帯主の夫からDV被害を受けている、親が使い込んでしまう、ホームレスだから住民票自体がない──。「本当に必要な人のところに10万円が届かない」という事態の深刻さから、「世帯単位」の問題が改めて浮き彫りになっている。
5月21日、立憲民主党はこのアンケートをもとに、オンライン座談会を開催。埼玉県朝霞市の本田麻希子市議会議員と、東京都北区のうすい愛子区議会議員が、アンケート結果と切実な訴えを紹介。福山哲郎幹事長、ジェンダー平等推進本部本部長の大河原雅子衆議院議員、同本部事務局長の西村智奈美衆議院議員とともに、「世帯単位」の問題を乗り越えるために政治は何ができるのか、意見交換した。
▼アンケートに寄せられた回答はこちら
https://note.com/cdp_gender
※政府が新型コロナウイルス感染拡大に対する経済対策の目玉として打ち出した、「特別定額給付金」のこと。一人あたり一律10万円を給付する。
世帯内の偏った「パワーバランス」。世帯単位の給付では、必要な人に10万円が届かない
4月27日時点の住民基本台帳に基づいて申請書が発行され、世帯主が指定した口座にまとめて世帯全員分の給付金が振り込まれる、今回の10万円給付。アンケート回答中、10万円が自分の手元には来ないだろうと回答した人は3割を占めた。うち半数は、夫や義父・義母、実の親などの世帯主が渡してくれない、使い道を独断で決めてしまうだろうという回答だった。
単身赴任として現在別生計を立てているが、住民票が親元にあり、転出・転入の手続きが4月27日までに間に合わず、親からも渡さないと言われているため(30代男性・埼玉県)
夫の口座に入る=家庭に入ったお金になり、自分の意思では使えない。決定権はいつも夫。専業主婦のわたしはお願いする立場になってしまう(20代女性・東京都)
世帯主がギャンブル依存症で経済的DVの加害者であり、連絡しても対応してくれないため(30代女性・北海道)
臨床心理士として家族の問題解決を支援してきた本田市議は、世帯主にまとめて支給された現金が他の世帯構成員に行き渡りにくい理由は、世帯内の「パワーバランス」が偏っているためだと説明する。
世帯内のパワーバランスには、社会的な地位や経済的な力が大きく影響しているというのは、これまでも様々な研究で指摘されてきました。夫が妻に権力をふるう、というのがよく見られますが、それだけではありません。アンケートでは親が成人した子どもに特別定額給付金を渡さない、という切実な声もありました。同じ世帯ならみんな平等、というわけでは決してないのです。
#世帯主ではなく個人に給付して
— ほんだまきこ@立憲民主党【朝霞市議会議員】 (@HondaMakiko) April 23, 2020
DV避難者の方への配慮がなされたとはいえ、#10万円給付 が受け取れない状況にある方がたくさんいらっしゃいます。皆さんの声を集めて届けていきますので、ご協力をお願いいたします。https://t.co/Wan0TUw9sN
4月末、役所窓口に女性が増加した理由
「女性の社会進出」「女性活躍」と言われて久しいが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、日本は2018年時点でも女性の平均賃金は男性の7割程度に過ぎない。世帯内でパワーバランスが弱い立場にあるのは女性であるケースが多いことは、DV被害者の9割が女性であることからも推測される。
今回の10万円給付を受けられない可能性が高いとみられているのが、住民票を移さずに避難している、DV被害者の人たち。暴力をふるった世帯主が、被害者の給付金まで受給してしまうおそれがあるからだ。アンケートでも、「DVで避難中のため、無事受け取れるかわからない(女性)」といった声が複数寄せられた。
(10万円給付を含む)世帯主に一律手続き系は、幸せな婚姻生活前提で作られており、DVから逃げて相手と接触、話し合いすら恐怖な状況の婚姻生活をしてる人には辛い制度でしかありません(40代女性)
立憲民主党など野党はこれを防ぐ手立てを政府に要望し、住民票を移さずに避難しているDV被害者の人たちは、申出書を避難している市町村(自治体)に提出すれば、受給できることとなった。
【#新型コロナ対策情報】#DV 被害者の #住民票 の交付制限、住民基本台帳の #閲覧制限 等の延長について無条件で期間を延長する、#特別定額給付金 について避難中のDV被害者本人が受け取れるようスキームを検討する等について、ジェンダー平等推進本部は総務省、内閣府に緊急要望を提出しました。 pic.twitter.com/9vn73I0p55
— 立憲民主党(りっけん)政策情報 (@CDPPOLICY) April 21, 2020
本田市議が行った朝霞市役所への聞き取りによると、この申出書の申請などのため、女性からの相談が増えたという。
申出書を提出する、世帯分離をしたいなど女性からの相談がとても増えていると言います。特に(4月27日時点の住民基本台帳に基づいた給付だったことなどから)、4月末には世帯分離などの相談が増えた。世帯単位の10万円給付で困っている人がだれなのか、目に見えて分かったということだと思います。
うすい区議は、世帯単位の給付によって社会的・経済的に弱い女性などに支援が届かず、立場の弱さが維持されてしまうことを危惧する。
世帯単位の制度を変えていかない限り、女性をはじめ経済的、社会的に弱い立場の人たちが結局は虐げられたままになってしまう。10万円が届かないのは、ジェンダーの問題につながっていると多くの人に知ってほしいです。
10万円だけじゃない、「世帯単位」の問題
「世帯単位」の制度が問題となるのは、今回の10万円給付だけではない。アンケートでは、10万円給付だけでなくこれまで世帯単位で困った行政手続きとして、以下の声のような声が集まった。
父が存命中は、選挙の投票所入場整理券が世帯主の父宛に届き、それを父がどこかに持っていってしまっていた(40代女性・東京都)
児童手当、旦那から渡してもらえない(30代女性・大阪府)
「家計をメインで支える世帯主が、子どもや妻を養う」標準モデルの限界
今回のアンケートでは、世帯単位の給付では支援が個人まで届かず困る人がいること、家族の形は多様であることが改めて明らかになった。政治はどのような社会像を描いていくべきなのか。議員を約20年務めてきた大河原衆院議員は、「古くて新しい問題が、コロナ危機で表に出てきた」と指摘する。
わたしは議員になってからの20年間、国民健康保険に加入していますが、世帯主である夫宛てに保険料の請求が来ていました。わたしが保険料を払っているのにおかしい、とずっと思ってきたんです。共働きが増え夫婦が別生計を立てている世帯も多い中で、世帯単位を基本にした制度は、本当に古くて新しい問題だと思います。
今回の10万円給付でそれが表に出てきましたが、ずっとあった問題を政治は見ようとしてこなかった。「家計をメインで支える男性世帯主が子どもや妻を養う」という世帯モデルを、政府が長く使い続け、現実と乖離(かいり)してもなかなか制度が変わってきませんでした。
でも、一人で暮らしていくのか、だれかと生計をともにするのか、一緒に住むのか。「世帯」や「家族」のあり方は、すでに多様化しています。立憲民主党が以前から掲げていることですが、わたしたちは従来の世帯モデルから抜け出し、個人単位の制度にすべきです。
家族には「互いに助け合う」義務がある?!「多様化した家族」に合わせた制度設計を
一方で、「家計をメインで支える男性世帯主が子どもや妻を養う」というモデル。福山幹事長は、自民党の憲法改正草案24条「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」に触れ、「価値観を押し付けるのが政治ではない」と同党との考え方の違いを強調する。
人は価値観どおりに生きているわけではありません。個人の人生にはいろいろな事情がある。それぞれの事情に向き合うのが政治の役割であって、家族の絆を大切にしなさい、と言うことではありません。こう言うと、「家族制度を否定している」とよく言われます。決してそういうわけではありません。全ての家族が幸せで平穏で温かいとは限らないわけですし、それに、ステップ・ファミリー(連れ子のいる再婚家庭)や同性どうしのパートナーシップなど、家族の形はすでに多様です。なのにそれを無視した制度設計をしていることが、問題なんです。
#世帯主ではなく個人に給付して
— 福山哲郎・立憲民主党(りっけん) (@fuku_tetsu) April 23, 2020
10万円が世帯主へ一括で給付されることになりました。世帯主は男性が多く女性に不利になりがちです。DVや虐待、アルコール依存症やモラハラ。家庭には様々な問題があり、全員に給付金が届かない可能性があります。ひとつひとつ壁を崩して、社会を変えていきましょう。 pic.twitter.com/BmmH5KIC4O
世帯単位の制度の問題は様々な政策分野に、また国レベル、自治体レベルの両方に存在する。福山幹事長は「まずは法律の改正が必要な案件、制度や運用を見直せば良い案件、などの整理をしていく必要がある」と話す。多様な家族のあり方を認める法律をつくることで、「世帯、家族のかたちは一つではない」というメッセージを人々に届けることも重要だ。
西村衆院議員:立憲民主党を含む野党は、家族の多様性に合わせた社会をつくる法案を、すでにいくつも持っています。選択的夫婦別姓法案、LGBT差別解消法案、同性婚を可能にする民法改正案などです。コロナの経験で、これらの法案が今の社会に必要だと改めて浮き彫りになりました。今後、法案成立に向けて頑張っていきます。
▼DV被害に遭っている方へ、相談先一覧などの情報はこちら
https://cdp-japan.jp/news/20200414_2832
<追記>6月12日にジェンダー平等推進本部は、特別定額給付金の受給者が世帯主だった問題について、総務省からヒアリングした。同本部では、国会閉会中も論点整理の作業を進める。https://cdp-japan.jp/news/20200612_3098
本田麻希子 MAKIKO HONDA(立憲民主党 埼玉県朝霞市 市議会議員)
ホームページ https://hondamakiko.com/
Twitter @HondaMakiko
うすい愛子 AIKO USUI(立憲民主党 東京都北区 区議会議員)
ホームページ http://usuiaiko.com/
Twitter @AikoUsui
福山哲郎 TETSURO FUKUYAMA(立憲民主党 幹事長)
ホームぺージ http://www.fukuyama.gr.jp/
Twitter @fuku_tetsu
大河原雅子 MASAKO OHKAWARA(立憲民主党 衆議院議員)
ホームページ https://ookawaramasako.com/
Twitter @Waku2_ookawara
西村智奈美 CHINAMI NISHIMURA(立憲民主党 衆議院議員)
ホームページ https://www.chinami.net/
Twitter @chinami_niigata