2020年4月27日
政治は私たちを見てますか?──アルバイト収入が途絶え、帰省もできないコロナ危機で、声をあげ始めた学生たち
緊急事態宣言下で多くの大学生がアルバイトを失ったり、収入が減ったりしている一方で、学費や家賃の納入期限は日に日に迫ってくる。特にアルバイトと奨学金で生計を立てる学生にとって死活問題だが、学生を支えていた親の収入自体が減るケースも。さりとて帰省自粛要請が出ている中では、実家に帰るわけにもいかない。
この板挟みの中、学生自身が声を上げ始めている。学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」は緊急調査を実施、コロナ感染拡大で大学生の13人に1人が退学を検討している、という衝撃的な事実を社会に突き付けた。高橋ゆいさん(早稲田大学3年)は4月13日、オンライン署名活動を開始。(1)アルバイトがなくなった学生への支援や休業手当(2)学費一部補助や猶予などの援助策(3)安全な帰省の方法をつくる(4)学生への心無いバッシングを止める呼びかけをする(5)学生寮の対応に統一的な方針を国が示す――の5点の要望をまとめた。
文科省の調査では、大学・短大進学率は年々増加し、2019年には58%。専門学校などを含めた高等教育機関への進学率は83%にもなる。決して一部の若者の問題ではない。
就職氷河期世代の塩村あやか参議院議員は、アルバイトを掛け持ちしながら奨学金で大学に通い、非正規雇用で働きながらの返済に苦労した経験を持つ。インターネットにあふれる学生の声に、他人事ではないと、4月16日の参議院内閣委員会で学生への支援策をただした。
この質疑をきっかけに立憲民主党は4月23日、高橋さんら6人の学生から約4,500人(4月23日時点)の思いが詰まった署名をオンラインで受領。学生一人ひとりの実情に、枝野幸男代表、蓮舫副代表、塩村参議院議員が耳を傾けた。
※高橋さんたちによるオンライン署名はこちら
※写真の上段左から大空さん、伊達さん、Aさん。中段左から土谷さん、枝野代表、蓮舫副代表。下段左から、塩村参院議員、高橋さん、辻さん
非正規雇用で働く保育士の母も収入ゼロ。学生の脆(ぜい)弱な経済基盤がコロナで鮮明に
アルバイトの収入がコロナ感染拡大前の三分の一になりました。支援してくれている親にも、コロナの影響が出ています。母親は非正規雇用で働く保育士ですが、収入がゼロになってしまい、負担がすごくかかっています。わたし自身は就職活動中ですが、企業の採用はストップ。先の見えない不安に、押しつぶされそうです。
伊達森生さん(立命館大学3年)は、十分な生活費を稼げず、親に負担をかけてしまうことに苦痛を感じている。そもそもこういった問題は、日本社会で構造的に起こりやすくなっていた。文部科学省によると大学の年間授業料は、国公立も私立もこの30年間で約1.6倍に上昇。日本学生支援機構の調査によると、2008年度から2016年度までに大学生の生活費に占める家庭からの給付の割合は、78%から63%へ低下。学費上昇にもかかわらず、親からの支援は減る中で、奨学金やアルバイトで学費をまかなう必要に迫られている、というのが今の学生の実態だ。そこにコロナ感染拡大が降りかかった。
若者たちの間では、自分たちが感染を広げてはいけないという意識がとても強いのに…
アルバイトのシフトはコロナ感染拡大前の三分の一か、それ以下に減っています。大学もオンライン授業なので、ずっと家に一人でいます。テレビをつけてもコロナの報道ばかりで先が見えず、何を頑張っていけばいいのか、希望を描けずにいます。友達に会えないので笑うことも減り、生活リズムも乱れています。最低限度の買い物もマスクやアルコール消毒が手に入りにくい中で、一人で行くので、感染したらと考えるととても怖く、つらいです。できたら帰省したいですが、もし自分が感染を広げてしまったらと考えると、できません。
土谷菜々子さん(早稲田大学2年)は友人に会えず一人で家に閉じこもり、実家に帰ることもできない中で、精神的な苦痛を抱えている。緊急事態宣言が全都道府県に拡大されたことを受け、大学のほとんどがキャンパスを閉鎖。授業の延期やオンライン講義への切り替えを進めていることが背景にある。
若者たちの間では、自分たちが感染を広げてはいけないという意識がとても強い。政府の『三密防止』を訴える広報動画でも、登場人物は全て若者で、感染拡大の原因であるかのように描かれています。感染の拡大を防止することも大事ですが、若者が感染を拡大させているというイメージを過度にあおると、不安を抱えた人たちを一層萎縮させかねません。
こう語るのは、24時間チャットで相談を受けつけるNPO「あなたのいばしょ」を運営している大空幸星さん(慶應義塾大学3年)。最近では、窓口に寄せられる相談のほとんどが、コロナに関係する不安やストレスを訴えるものになったと言う。
「家賃支払いで精いっぱい。生活費工面できない」悩んだ末の帰省という決断
先月からアルバイトがなくなり、家賃を払うので精一杯で、大阪の実家に帰らざるを得なくなりました。メディアでのバッシングもあり、帰省する学生への風当たりが強まる中で、大変悩んだ結果です。わたしの家は母子家庭です。セミナー講師をしている母も仕事のキャンセルが続き、実家に帰ったからといって、経済的に安心とは言えません。
東京で一人暮らしをしていたAさんは、やむにやまれず大阪の実家に戻った。4月7日には政府の緊急事態宣言を受け、東京都は帰省自粛を要請。インターネットを開けば、帰省者へのバッシングが吹き荒れる中での苦渋の選択だ。署名運動の発起人の高橋さんは、やむを得ず帰省する人たちの安全確保を、と力を込める。
生活が苦しい、つらい、でも感染拡大を避けたい、と帰省をしない人。一方でやむをえず帰省する人、どちらも悪者ではありません。それなのに、帰省した学生に対するバッシングが相次いでいます。やむを得ず帰省する学生に対して、感染拡大を防止しながら、安全な帰省の道をつくって欲しい。たとえば新潟県三条市は、やむを得ない事情で市内に入る人に対し、感染していないと確認できるまでの2週間、地元ホテルに格安で宿泊できるプランを用意しています。
枝野代表はこの事例を聞き、「帰らざるを得ない学生の支援も検討していきます。感染防止の対策を施しながら潜伏期間の2週間をホテルの空室を使ってしのぐなど、コストを抑えながら実施できる有効な対策はあると思います」と応じた。
「学生は日本の未来」。大学や家族に丸投げせずに、政治が果たすべき役割とは
学生への公的な支援の代表的なものとしては、日本学生支援機構の奨学金がある。経済的な理由で大学に通えない若者を減らすべく、この4月から住民税非課税の世帯向けに授業料・入学金と給付型奨学金を支給する「高等教育修学支援新制度」をスタートした。コロナ感染拡大で家計が悪化した学生にも、この制度の利用を呼びかけている。しかし、学生たちによると「現実的ではない」。大空さんはこう説明する。
僕が電話で確認したところ、今すぐ申請しても、支援を受けられるのは最短でも6月だそうです。多くの学校で学費納入期限は4月末。到底間に合いません。
明治学院大学は、オンライン受講環境整備のため全学生に一律5万円給付するなど独自の支援策を打ち出しました。メディアはこの事例をよく取り上げますが、他の大学で同じことをできるわけではありません。あくまで国が中心になって根本的な対策を打ち出さないといけないと思います。
蓮舫副代表は、政治の現場で学生支援の緊急性が十分理解されていないと指摘。補正予算審議で追及していく、と応じた。
大学も厳しい経営環境の中で、学生の窮状を目の当たりにしながらも、どうして良いのか分からないというのが実情でしょう。しかし学生は日本の未来です。政治が介入するしかないんです。
閣議決定された2020年度補正予算案を見ていると、『アルバイトが無くなったのなら実家を頼ればいい』『大学が何とかしてくれる』という甘い前提で組んだのがわかります。 学生の授業料減免支援では、国立大に4億円、私立大に3億円、高専に200万円、計約7億円。これは絶対にリアルじゃない。外出自粛して公園に行くなと言っている段階なのに、小さい子ども向けの自然体験活動、運動遊びを創出する事業には21億円がついてるんですよ。大学支援の3倍です。緊急性の高い学生に、しっかり予算を振り分けていかないといけない。
「親が子どもを助ける」は当たり前じゃない。個人に確実に届く奨学金制度へ
日本学生支援機構の奨学金は、親が子どもを助けるという考え方に基づいてつくられています。でも、家族に頼れない学生は、どうしたら良いんでしょうか。
辻昌歩さん(慶応義塾大学3年)は、日本学生支援機構の奨学金制度が、支援を受ける学生本人ではなく、原則的に「生計維持者」の収入を受給者選考の基準としていることの問題を訴えた。
わたしは自分で働いて生計を維持しています。それなのに、学生支援機構から見たら、『生計維持者』は親なんです。世帯を分けても扶養を外れても、親が生きている限りは親の所得が(受給者選考の)基準になるので、奨学金がもらえない。そのことで、ずっと苦しんできました。制度も、その根底にある考え方も変わらない。わたしたちのような思いをしている人がたくさんいるということを、政治にきちんと見てほしい。
枝野代表はこの問題に対し「世帯単位の給付が問題になっている10万円一律給付の問題と同根だ」と応答。
学生の皆さんが抱える困難を根本的に解決するためには、従来の仕組みそのもの、その根幹にある、現実に合わない考え方を変えていく必要があります。その壁は非常に厚いですが、今日の切実なお話を聞いて、なんとしても乗り越えるべき壁なんだという思いを強くしました。
「学生のことは、家族や大学がなんとかすればいい」。そんな政治の無理解の中で孤立してきた学生たちは、目の前の窮状を訴えるだけでなく、時代に合わない制度の在り方を問い直そうとしている。立憲民主党はその重さを受け止め、コロナ危機を乗り越えた先に新たな社会像を共につくっていくために、これからも現場に根を下ろした政治を追求していく。
<追記>※高橋さんたちから受け取った署名を、4月24日に塩村参院議員が内閣府・厚労省・文科省に提出した。 https://shiomura-ayaka.com/646/
※このヒアリングを受けて、4月28日の衆議院予算委員会で枝野代表が、学生への支援について安倍総理に質問した。枝野代表は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアルバイト収入が減り、制度上は雇用主から「雇用調整助成金」を受け取れる学生も、実態としては受け取れていない、現在の支援制度だけでは生活が苦しいという声があると指摘。学費の支払いや生活に困っている学生にも、「持続化給付金」を給付してはどうかと提案した。安倍総理は、持続化給付金の学生への給付は難しく、従来の制度を活用してほしいと答えるにとどまった。