2019年3月21日
「大阪の女性が政治を変える!」大阪クロストーク
昨年12月にトークセッション「大阪の女性たちが政治を変える」が開かれるほど、女性の存在感が大きいのが大阪だ。立憲民主党大阪府連ですでに活動する30名ほどのうち、半数ほどが女性だ。
一方この10年ほどの間、大阪では学校選択制や公務員給与カットなどの政策から、身近なコミュニティで育児や介護、介助を支え合ってきた大阪ならではの“地域のつながり”の分断が危惧されている。特に2015年の大阪市都構想住民投票では、近隣に住む人どうしの“ギスギスした感じ”が蔓延していたという。
「自己責任で頑張る人はえらい、ダメなのはお前が悪い、と言って分断を生む風潮をなんとかしたい」「女性といっても課題は人それぞれ。意見が違くても、みんなで話ができるから心強い」「“女性へのハラスメントはあかんで”とはっきり言わないとダメ」―。
今回集まってもらったのは、大阪市東住吉区のけさまるともこ、大阪市西区の笹田よしみ、豊中市の井上ひろみ、大阪市阿倍野区の橋本まな。自身の子育て、ビジネス、地域活動といった多様な経験から、政治活動への挑戦を決意した面々だ。育児や介護、介助、教育を地域社会で分け合い、支え合える大阪の良さを取り戻そうと奮闘する4人に、大阪が抱える課題や、活動状況を聞いた。
4人それぞれの“きっかけ”
──まず聞いたのは、それぞれが政治活動をスタートすることになった「きっかけ」。日本は女性政治家の割合が少ない。中でも地方議会の女性議員の割合は、12.6%(2017年末時点)だ。まだまだ女性を取り巻く環境が厳しい中、彼女たちを動かす原動力はなんだろう?
──まずは東住吉区で活動するけさまる。東住吉区は貧困をはじめとした課題がたくさんある。
けさまる:わたしのおばあちゃんは字が書けなかったし、財布の中はいつも小銭でいっぱいでした。計算をちゃんと教えられずに育って、いつもお札で支払っていたから。
──だが、課題が多かったからこそ「こども会」が活発だったりと「地域の子どもは地域で育てる」仕組みや文化があった。「困ったときは地域で支え合う大阪」。それがけさまるの原点だ。
けさまる:ただこの10年ほど、地域活動や文化事業ができる公的な施設が次々と閉鎖されていきました。今の政治では地域と子どものつながりが薄まってしまう、と危機感を強く感じています。
──「昔から理屈が納得できないと授業についていけない生徒だった」と語る笹田の原点は、教育現場。特に様々な障がいを抱える子ども達のサポートだ。自身で起業し、現場の教員たちと、様々な障がいを持つ子どものための教材や、パソコンを使った授業を開発してきた。
笹田:教育現場を見てきて、障がいを持つ子、外国にルーツを持つ子やその親に対するサポート制度は不十分だと感じます。今までは教材製作など間接的な方法で、様々な特性の子の居場所をつくろうとしてきました。でも50歳を超えて、「もう時間がない、直接制度をつくる側に回ろう!」と決めました。
──井上は高校卒業後、すぐに結婚、出産したが、離婚を経験。21歳で2歳の子どもを抱えるシングルマザーとなった。保育費がかさんで生活が立ち行かなくなるなど、女性の就労を支える制度の不備を痛感してきた。国会議員秘書になってからは、政治家のイメージと実態のギャップに驚いたという。
井上:世の中のために、と自負を持ってバリバリ仕事しているのが政治家だと思っていました。でも、議員バッジに満足している人もいた。そんな現場を市民目線から変えたいです。 それに、わたしがシングルマザーとして子育てしていたころはまだ景気も良くて、いろいろな人に助けを求められた。でも今は人々が支え合う余裕を失って、シングルマザーはわたしの頃よりも厳しい環境にいます。「普通」のレールを外れても女性が生きやすい大阪をつくりたい。
──「大阪のまちに、ありのままでいることの大切さや楽しさを教えられた」という橋本。子ども時代はテスト勉強漬けで、周囲の期待に合わせ「自分で決める」ことが出来なかった。ところが大学進学で大阪に移り、そこで互いに支え合いながらたくましく生きる大阪の人たちと出会って、自分を自由にできたのだという。それでも、妊娠時には苦悩があった。
橋本:せっかく見つけたやりたい仕事を辞めたくなくて、手放しで妊娠を歓迎できない自分。一方で、妊娠は喜ばしくて、仕事より優先すべきもの、という社会通念。「あるべきお母さん像」になれない自分を責めていました。そんな時に友人がかけてくれた「みんなで一緒に育てよう」という言葉で肩の荷が下りたんです。
──そんな橋本が目指すのは、「女性が諦めなくていい社会」。
橋本:だれでも性別、年齢、職種といった枠にとらわれてしまう。特に女性は「自分が悪い」と責めがち。「ありのままの自分で生きられる」選択肢のある社会を実現したいです。それは女性だけじゃなくて、みんなが暮らしやすい社会だと思う。
“多様な大阪”が崩れていく──住民投票が残した「しこり」
──大阪市では4年前、「大阪都構想」の住民投票があった。僅差で否決されたものの、地域住民間にはギスギスした空気が蔓延していたというが、それぞれの現場でどう感じていたのだろうか?
橋本:駅前で都構想反対の活動をしていた友人が、「うそつき!」って怒鳴られたことがあった。異なる意見の人を全く認めない雰囲気がありました。わたしを解放してくれた「多様な大阪」が崩れていくのを感じました。 けさまる:似た話をわたしも聞いたことあるなあ。同じように、知り合いが都構想反対のチラシを配っていたら、知らないおばちゃんがそれを目の前で破ったんだって。ショックだったと言っていました。
この10年で大阪はバラバラになった
──学校選択制、教育基本条例など学力テストの結果を重視して教師を競争させる政策が相次いで打ち出される大阪。
昨年8月には、大阪市の全国学力テストの結果が2年連続、政令指定都市の中で最下位だったことを問題視して、全国学力・学習状況調査の結果を教員のボーナスや学校予算に反映すると市長が発言。物議をかもした。その後、教員のボーナスへの反映は断念したが、テスト結果の重視は変わらない方向だという。 大阪全体に共通する課題は、競争、分断をあおる政策。意見が異なる相手を受け入れない土壌が出来つつある、と4人は危惧する。
橋本:維新のさまざまな教育改革、そして昨年のボーナス発言。先生たちはチームで力を合わせて教育、地域の課題にあたっていくことが必要なのに、一人勝ち残ればいいっていう考え方が社会を衰退させてしまう、と危機感があります。
けさまる:わたしの知る大阪市の先生たちは昔、「5時から仕事」と言って、保護者が帰宅している時間帯に各家庭を回って、子どもたちの状況を確かめていました。 会えなくても家の裏手に回って、「よし、子どもとお母ちゃんのパンツがちゃんと干してあるから大丈夫」、と確認したり(笑) そういう多面的な先生の仕事が評価されず、学力テストに偏重しているのはおかしいと思います。
笹田:わたしも教育現場で危機感を感じていました。最終的には撤回しましたが、評価のされ方が学力テストに集中する雰囲気なので、大阪市の教員にはなりたくないとはっきり言う先生にたくさん会ってきました。
井上:文化や芸術への予算、政策が後退し、自由な空気がなくなってきています。公務員の給与を減らすなど、大きな声でメディアを騒がせるパフォーマンスばかりの政治家が増えたのは大きな問題だと思います。
大阪の女性が政治を変える!
──女性が増えてきたとは言え、まだまだ政治の世界は議会も、活動の現場も「男性社会」。多忙な中で、女性政治家の卵として感じていることは?4人にフリートークをしてもらった。
井上:街頭演説をしていると、秘書をしていたころよりも女性がビラを受け取ってくれる頻度が高くなったように思います。政治への関心が高まってるのかな。
笹田:これまで経営者として生きてきて、周りを見渡せば全員男性。どうして結婚しないの?と言われて不快に思っても、声を上げることもできなかった。ここに来て、女性としてグループで頑張れることが嬉しくって。
橋本:私はもっと、女性がのびのび活動できると期待してたかな。女性を囲んでいるのがみんな男性だと、やっぱり居づらい(笑)。
けさまる:感じること、課題はひとくちに「女性」と言っても、いろいろですよね。でも、こうやって言えるのは、女性が複数いるからこそです。 わたしは飲み会の場や会合で「旦那さんえらいね」と言われます。たしかに私の政治活動を支えてくれる夫や子どもたちはえらいけど、夫が私の活動を「女性として特別なこと」と上の立場から「許可してくれてる」わけじゃない。
──一方で女性が政治活動をするにあたっては、残念ながら有権者からのハラスメントを被ることがある。これから女性議員を増やすために、取り組まないといけないことは何だろう?
笹田:外に出て名前と顔を出して活動するので、ストーカーなどの被害に遭った時に、警察に届けるなどの対処方法を共有しないと。ハラスメント対策のガイドラインを政党が作るべきだと思います。
井上:女性が男性社会で働くと、どんな業界でもハラスメントがありますよね。社会全体の問題です。女性議員を増やすのに加えて、政治活動や選挙を支えるブレーンにも、女性を増やさないといけないですね
橋本:たしかに社会全体の問題。ただ政治家は「票をもらう」という点で特別だと思う。周囲からは「言い返さず、にこやかにいなさい。そうでないと票が逃げる」と言われます。でも公職に就こうとしているわたしたちは、毅然とハラスメントに立ち向かう、と発言する役割を担って、他の女性たちに勇気を与えたいと思う。
けさまる:「女性へのハラスメントはあかんで」とはっきり言わないといけない。票は逃げるかもしれないけど、ダメなことはダメと言わないといけない。
──最後に、各自が取り組みたい政策、思い描く大阪の姿、政治活動で大切にしたいことを聞いた。
けさまる:子どもの貧困については、学校を中心にして、「教育と福祉と就労」の支援が集まる仕組みを作りたい。大阪市は生活保護率は全国1位、生活困窮世帯を対象に学用品費などを支給する「就学援助」は小中学生の4人に1人が受けていて、全国平均の約15%を大きく上回っているんです。 ・・・とデータで語ってしまったけど、一つひとつの問題を話すときに、具体的な人の顔を思い浮かべられる政治家でありたいですね。
笹田:100年先を見据えて、教育の中でも特に、子どもの個性を大切にした特別支援教育を充実させる制度に力を入れたいです。そのためには、先ほどから何度も話に出ているように、学力テストに偏った教員の評価制度を改めないといけない。
井上:「認め合い、支え合う社会」がキーワードです。制度面はもちろん、多様な人の声を聞いて、大阪らしい地域の助け合いを取り戻したい。 でも私が挑戦する府議会は、議員の女性比率が4.5%と全国の都道府県議会で42位。バランスの悪い議会で決めた政策は、多様な人の意見を反映しているとは思えません。女性だけでなく、様々な立場の人が政治に参加しやすい環境をつくりたいです。
橋本:現役子育て世代としては、楽しいはずの育児がしんどいものにならないよう、待機児童解消や病児保育施設設置に取り組みたいです。あとは各学校に事務作業やクラブ活動の顧問になる支援員を置いて、 先生が余裕をもって子どもに向き合えるといいなと思います。
──年齢も出身地も、これまで歩んできた経歴もばらばらな4人。その根底にあるのは、自分の信念を形作ったり、苦しい時に助けたりしてくれた、“お互い様に支え合う”大阪を取り戻したい、という強い思いだ。
4人それぞれの意見、感情を決して否定せずに対話し、女性政治家へのハラスメントにはともに毅然と対応しようとする姿には、手を取り合って前に進もうとする強い覚悟と自負が満ちていた。 現在の政治では、彼女たちが目指す社会像を実現するのはなかなか難しい。 “日本版パリテ”を大きな追い風に道を切り開く彼女たちの活動は、多くの女性たちを勇気づけるはずだ。
【プロフィール】
けさまるともこ TOMOKO KESAMARU
1977年、大阪市東住吉区生まれ。桃山学院大学社会学部卒。社会福祉法人理事、自治フォーラムおおさか事務局。社会福祉士、ファイナンシャルプランナー2級の資格を持ち、様々な地域活動に取り組む。2017年の総選挙では尾辻かな子の選挙活動に候補者付きとして関わる。夫、小学生の息子2人の家族とともに現在も東住吉で暮らす。
笹田よしみ YOSHIMI SASADA
1965年、大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院修士(教育工学)。特別支援教育向けの教材の開発、無料での普及に取り組む「特別支援教育デザイン研究会」主席研究員。母子手帳をデータ化し、家庭や学校、医療、福祉機関が連携して保護者の相談や支援にあたる「母子健康手帳データ化推進協議会」の主席研究員。
井上ひろみ HIROMI INOUE
1965年、大阪市福島区まれ。大阪府立八尾高校卒。会社員やフリーアナウンサーを経験。子育てがひと段落し、社会に恩返しになる仕事をしたいと転職コンサルタントに依頼したところ、予想外の国会議員秘書を紹介され、12年間務めた。ギター、ウクレレ、ジャズボーカルと多彩な趣味を持つ。現在は豊中市服部西町に住み、家族は夫。近くに娘夫婦、孫が暮らす。
橋本まな MANA HASHIMOTO
1987年岡山県生まれ、広島育ち。大阪市立大学文学部社会学コース、大阪府立大学総合リハビリテーション学部栄養療法学科卒。テスト勉強ばかりだった子ども時代の反動で「ものを作り出すのがとても楽しい」と料理にのめり込む。管理栄養士。夫とともに1児を子育て中。