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2020年7月17日

「あと30年で石油依存から脱却しなければ」プラスチック問題の第一人者が鳴らす警鐘  高田秀重 東京農工大学教授

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プラスチックごみが海洋を汚染し、海洋生物や海鳥に深刻な被害を与えている問題が、ここ数年注目を集めてきている。プラスチック使用量削減が叫ばれているのは、海洋汚染だけでなく気候変動の要因にもなるからだ。主原料である石油は採掘時を含め、生産の際に温室効果ガス、つまり二酸化炭素(CO2)を排出する。また日本は廃プラスチックの8割以上が「リサイクル」されているが、実はそのうち7割強は焼却時に生じるエネルギーを発電などに利用するための「熱回収」として燃やしており、温室効果ガスを排出している。

東京農工大学の高田秀重教授は、海洋汚染や気候変動への影響だけでなく、動物の生殖にも影響を与える可能性があるとしてプラスチックの使用削減を提唱する、この分野の化学研究の第一人者だ。各国大使館や多くの企業・団体の講演会など各所での交流を通して、日本でも先見性のある組織や個人が動き始めているのを実感しているという。一方、日本では7月1日からレジ袋有料化が始まったものの、「かなり骨抜き」(高田教授)となっている。プラスチック使用の多角的な問題点と、本格的な使用量削減に向けて今、必要な社会変革について聞いた。

プラスチックに含まれる化学物質の、何が問題なのか

────ここ数年でよく聞くようになった、マイクロプラスチック(※)について教えてください。

マイクロプラスチックは、いまや水道水やミネラルウォーターにも含まれますが、今の100倍、1,000倍の濃度になって初めて、人間に影響が出ると言われています。現状はごくわずかなので人間に直接影響はないというのがWHO(世界保健機関)の見解です。わたしもそうだろうと思います。

むしろ問題は、プラスチックの粒自体ではなく添加剤です。プラスチック製造時に加えられる可塑剤、難燃剤、酸化防止剤といった添加剤が、マイクロプラスチックを食べた魚や貝の身に溶け出せば、それを食べたわれわれの体に、有害な化学物質が蓄積する可能性があります。これが、人間への影響の核心だと考えています。

有害と言っても、ただちに死んでしまうわけではありません。様々な学術研究の結果、プラスチックの添加剤により、人間の生殖能力や免疫力が落ちる可能性があることがわかっています。1980年代に黒海でアザラシが大量死したことがあります。原因と思われた、化学物質の体内の濃度は致死量ではなかった。さらに調べた結果、化学物質の摂取による免疫力の低下から、ウイルスによる感染症にかかっていたことが原因だったそうです。マイクロプラスチックの問題を放置すれば、化学物質に長期間汚染された人類の免疫力が落ちてきて、ウイルスなどの脅威に対して脆(ぜい)弱になっていく可能性は否定できません。

※5mm以下の微小なプラスチック粒子のこと。研磨剤や化粧品などに使用するために生産される一次マイクロプラスチック(マイクロビーズ)と、くだけて細かな破片になった二次マイクロプラスチックがある。

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────どのような経路で、どのような物質が人体に入るのでしょうか?

魚の体内に入ったマイクロプラスチックそれ自体は、はらわたを取ればかなり取り除けます。ただ、マイクロプラスチックから溶け出した添加剤は、脂肪や肝臓や生殖腺などにたまっているのでわれわれが食べてしまう。生物の体内に蓄積された化学物質は、食物連鎖を通じて濃度が上がっていきます。魚の体に入った化学物質は、人間が摂取するときにはより濃くなっているのです。

マイクロプラスチックには、もうひとつ問題があります。それ自体に含まれる添加剤に加えて、環境中の有害物質が吸着されるのです。たとえば、PCBやDDT。PCBは1968年、米ぬか油の製造過程で混入し、摂取した人に様々な健康被害や障がいを引き起こしました。日本の公害の一つ、「カネミ油症事件」としてよく知られています。DDTは戦後、農薬として害虫防除に広く使われていたけれど、毒性が強く、現在日本では製造・使用が禁止されているものです。

有害物質は、海を漂う動物プランクトンなど微生物にも吸着します。でもその場合はすぐに外れるし、プランクトン自体も分解されるので、そう遠くまでは運ばれません。一方、プラスチックは数倍強く吸着する上に、外れにくい。分解されずに浮いて遠くまで運ばれるので、もともと汚染物質がない無人島にも、濃度が高いまま漂着してしまうのです。

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日本が海ごみ問題の加害者なのは「誤解」ではない

───日本からも海洋へプラスチックごみは出ているのでしょうか?

日本周辺は世界の他の海域よりもマイクロプラスチック濃度が高いです。理由のひとつは、使い捨てプラスチックの多さ。日本の使い捨てプラスチック使用量は米国に次ぐ世界2位です。日本は過剰包装です。海外旅行をされる方は、比べてみれば一目瞭然でしょう。

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安倍首相は2019年のG20大阪サミットで、日本から出ている海洋プラスチックごみが多いというのは誤解だと発言しましたが、荒川など国内の川にも大量のプラスチックごみが集積しています。他国から運ばれてきたものが、(逆流して)川にたまるわけはないですよね。これらは、やがて海に出ます。

もうひとつは、海流です。日本は東南アジアへプラスチックごみを資源として輸出しています。東南アジアの限られた処理キャパシティに日本などからのごみが集まり、あふれ出たプラスチックが、熱帯の強烈な紫外線と熱と風の力で微細化しつつ、黒潮に乗って日本周辺に運ばれてくる。百歩譲って日本から海に直接出るものが相対的に少ないとしても、国内でリサイクルしきれず他国に押し付けたプラスチックの一部は、巡り巡ってわれわれの食卓にのぼっているのです。

プラスチックが安いのは、わたしたちの税金を使ってリサイクルしているから

プラスチックの分別、回収、運搬、リサイクル、焼却炉の建設などには非常に費用がかかりますが、今はほぼ自治体任せ、すなわちわれわれの税金が使われています。プラスチックを買わない人も含め、見えないコストを負担しています。だからこそ、生産者はプラスチック商品を安くできるのです。

この仕組みを変えていくのに有効なのが、EUがプラスチック削減案に織り込んでいる、拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)の徹底です。容器を作った生産者が、その廃棄やリサイクルにかかる費用まで負担する責任がある、という考え方です。日本政府には、プラスチックについてこの視点が欠けています。

────プラスチックのリサイクルで、海洋汚染を解決できますか?

海洋汚染という点では解決策かもしれませんが、プラスチックについて考えるときにはもうひとつ、気候変動を引き起こすCO2を出さない、という視点も必要です。たとえばペットボトルを製品にして、運んで、もう一度ペットボトルにリサイクルするより、ガラス瓶を製品にして、繰り返し洗って使い、駄目になったら砕いてまた瓶にする「リターナブル瓶」で同じ量の飲み物を提供したほうが、CO2発生量が少なく持続的です。

では、なぜ企業はペットボトルを使い続けるのか。ガラスはペットボトルより重く、輸送費がより多くかかるため、飲料製造の企業には経済的な負担が大きいのです。一方で、回収・分別を含むリサイクル費は、自治体が払ってくれる。これでは企業はペットボトルを使い続けるでしょう。EPRに踏み込まない政策の問題です。

そもそもプラスチックは、無限にリサイクルできる素材ではありません。ですから、使い捨てプラスチック使用量を減らすのは前提ですが、どうしても必要なプラスチックを繰り返し使うために、原料を石油から、再生可能な生物由来資源、つまりバイオマスに替えていく必要があります。

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生分解性プラは、海洋プラスチック問題の解決策?

────微生物の働きにより、水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」について教えてください。 

「生分解性プラスチック」と呼ばれるプラスチックは、陸上あるいは海の、条件のいいところで分解します。しかし海の環境は一様ではありません。海の表層で分解する生分解性プラスチックも、海底は酸素も少なくなり、温度も低めで、微生物も動きにくくなるので、沈めば残る可能性があります。ですから、単に生分解性プラスチックを作れば良いのではありません。海に出る前に陸できちんと分解する仕組みをつくる必要があります。

たとえば、食品容器に生分解性プラスチックを使い、微生物の力で食品残渣(ざんさ)と一緒に分解・発酵して、堆肥にするような仕組みをつくっていくことが大事だと思います。

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ただ、こういった新しい仕組みは、農林業の問題と組み合わせて考えなければいけません。まず堆肥のニーズがどれほどあるか未知数です。また供給の面では、バイオマスの生分解性プラスチック原料をどこから調達するか、という課題があります。食料生産との競合を避けるため、今は植物の非可食部から生分解性プラスチックをつくる動きが活発ですが、現在のプラスチック使用量のまま原料を植物の非可食部に切り替えたら、森林破壊が起きかねない。そうすると、森林がたくわえていたCO2が放出され、温暖化を進めることになる。

こういった課題を解決するための、生分解性プラスチックと農林業の視点との連携は、政治のリーダシップがなければ実現しません。生分解性プラスチックの普及を目指すのであれば、廃棄後に海に出ない仕組みづくりをしなければなりません。社会の中のモノの回し方を変えていかないと、海洋プラスチック問題は解決しないのです。

───そういった新しい仕組みに、課題はありますか?

生分解性プラスチックを堆肥にした場合、添加剤の環境中への影響が問題となります。ここに着目し、添加剤も環境や人に安全なものに替えようとしている企業も出てきています。ある企業は、でんぷん原料のプラスチックに劣化防止の添加剤としてビタミンEを入れて試作しましたが、手触りなどに課題が残り改善中だそうです。こういう取り組みに光を当てて、積極的に投資すべきではないかと思います。

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脱石油の遅れは、日本企業を弱くする

─────気候変動に対して、プラスチックが及ぼす影響を教えてください。

ほんの数年前まで、日本の省庁が集中する霞ケ関の駅に、プラスチック資材を原油の有効利用として誇らしげにうたう石油業界の広告が掲示されていました。でも今はありません。さすがにそんなに威張れる時代じゃない。日本はパリ協定の締約国です。2016年に発効したパリ協定は、途上国を含む全ての参加国に、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑えること、そのためには、21世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを求めています。

石油を燃料として燃やすとき、また石油でできたプラスチックを発電などに利用するために燃やす「熱回収」をするときにも、CO2が出ます。ですからパリ協定をきっちり守ろうとすれば、あと30年で、われわれは石油を燃料として燃やすことができなくなるのです。燃料成分が採れないわけですから、当然その残りからプラスチックを作ることもできない、つまりあと30年で石油に依存した文明から脱却しなければならないのです。

今が大切な移行期間なのに、石油ベースのプラスチックを利用し続けていたら、2050年には日本企業が世界でビジネスしづらくなるのではないでしょうか。プラスチックは石油の有効利用だと主張し続けるのは、企業活動にとってマイナスです。

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────2020年7月から、日本でもレジ袋が基本的に有料となりました。

特定非営利法人荒川クリーンエイド・フォーラムの調査によると、河川敷に散乱しているごみランキングでもレジ袋は10番目くらいと、上位ではありません。それでもわたしたちにとって身近で、象徴的なレジ袋に政府が規制という形で枠をかける意味はあると思います。

ただ、バイオマス由来のプラスチックを25%以上配合すれば無料配布可などという例外が多く、かなり骨抜きになっています。というのも、植物からつくるプラスチックは、微生物による分解がされるとは限らないのです。こういったものを規制しなければ、海の汚染という点では何の解決にもなりません。入口が海洋汚染だったのに、出口が資源問題にすり替えられている点は問題です。

企業や政府がつくった仕組みの下、われわれ市民はプラスチックを使い捨てで使わざるを得ません。この状況を改善するためには、まずはEPR(拡大生産者責任)を徹底すること。一方で、添加剤の見直しなど環境負荷の少ないプラスチックの研究開発を行う企業を応援すること。それから、生分解性プラスチックがきちんと地上で循環するための仕組みづくりが必要です。

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高田秀重 HIDESHIGE TAKADA
1959年生まれ。東京農工大学農学部環境資源科学科教授、理学博士。国連海洋汚染専門家会議の委員を歴任。1986年に同学部助手、2007年から現職。環境ホルモンへの関心から海に漂う残留性有機汚染物質(POPs)を濃縮するプラスチックに着目し、市民参加型モニタリング「インターナショナルペレットウォッチ」を世界50カ国で展開。長年のフィールド調査に基づき、マイクロプラスチックの生態系への影響を研究している。2019年「日本有機地球化学会 学会賞」ほか受賞多数。監修本に『プラスチックモンスターをやっつけよう!』(2020年、クレヨンハウス)など。