政治がわたしたちのリアルに追いついていない——2人の弁護士の挑戦 かめいし倫子・うち越さくら

2019年10月1日

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*この記事は、2019年7月参院選の特設サイトに掲載したものを転載しています。

クラブ、タトゥー、DV被害支援、選択的夫婦別姓…2人の女性弁護士が見てきた”現場”

司会:佐藤倫子弁護士)かめいしさんは大阪から、うち越さんが新潟から、参院選に挑戦します。それぞれ弁護士として今までどんなことに取り組んできたか、教えてください。

かめいし)わたしは刑事弁護をやってきました。被疑者や被告人という立場になって罪を犯したと疑われている人の弁護をする仕事。いったんその立場になると、誰も自分の言い分を聞いてくれない。その人たちの訴えてることを先入観なく聞いていると、いろんなことに気づかされました。

たとえばクラブ裁判。風営法という昭和の時代にできた古い法律がそのまま残っている。「ダンスをさせるには国の許可が必要」といった、いまの社会の実態に全然合っていないことで、大阪にあるクラブが摘発された。

タトゥー裁判もそうです。わたしのところに相談に来た彫り師さんの1人が「先生、僕はこの仕事で家族を食べさせてるんです」って。職業は生活の糧だけでなく誇りでもある。なのにある日突然、医師免許を持っていないのにタトゥーを施したと言って、医師法違反だと犯罪者扱いされる。それって許せないと思って、取り組みました。

うち越)わたしはDV(ドメスティック・バイオレンス)や離婚に関する相談を多く受けてきました。出会う人たちに心を揺さぶられて、このままにしておけないっていうことでやってきたかなと思う。

もう離婚しようと弁護士のところに来てる人なんだけど、ものすごい暴力を振るわれてても、大抵の人は「ひどい暴力を受けたんです!」って言うんじゃなくて「大した事ないんです」って言う。「カッターで刺されたくらいです、包丁は持ち出されてないです」とか。

だから、その背後にはどれだけ多くの人たちがまだ相談できずに、耐えてるんだろうなと思った。わたしができることは、まずどういうことがあったか聞くこと。そうすると、始めのうちは凍り付いたような顔をしていた人たちが、法的手続が進むごとにすごく明るく、全然違う顔付きになるんです。それは大きなやりがいでした。

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法律が社会の変化に追いついてない

佐藤)政治家になって、何をしたいと思いますか?

かめいし)法律が時代に合ってないことによって、自由や権利を脅かされている人のためにこれまで働いてきたので、今度は立法の立場から取り組みたいと思います。最高裁で画期的な判決をもらったとしても、それですぐ立法が動くかというと、全然動かなかったりするんですよ。だからわたしが原動力になりたい。

わたしが携わったクラブ裁判は風営法、タトゥー裁判は医師法が、社会の変化に追いついていなかった。GPS捜査は新しい情報通信技術を使った、新しい捜査手法なのでやはり法律が追い付いていない中で起こった事件。新しい時代の中でみんなが求めていることに耳を傾けて、そこにきちんと合った法律を新しく作ったり、昭和の時代にできた古い法律をどう変えたら今の時代に合うか考えたいと思います。

うち越)わたしのところに相談に来た女性たちは、離婚したら子どもの教育費や習い事の費用をどうしよう、自分が我慢しないといけないんじゃないかって悩んでいる。安全な所でお子さんと新たな生活を送りなさいって、自信を持って言えればいいんだけど、やっぱり今の社会だと生活水準が下がっちゃいますよね。それを決断させてしまうのは、辛かった。

弁護士としてそういう現実を見てきた者の責務として、彼女たちの状況をくみとって、制度に反映させなくちゃ、と思います。弁護士としてのわたしが出会って問題解決できる人たちは一握り。制度や法律を変えられれば、もっと社会全体の多くの人の助けになれる。

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みんながおかしいと気づき始めた――パリテが必要な理由

佐藤)ここ10年くらいで、LGBTや女性に関する問題でいろんな人たちが声を上げ、可視化されてきた。うち越さんは医学部入試における女性差別対策弁護団の共同代表をされていて、何を感じていましたか?

うち越)こんな露骨な差別がまだあったのか、と衝撃でした。さらに衝撃を受けたのが、過酷な医療の現場に女性医師を入れる余裕がないから仕方ないという、女性差別が強固な社会に迎合的な発言もあったこと。

差別を受けて尊厳を損なわれてしまった女性の元受験生たちが救済されないまま、社会全体でそういうことが「あるあるなことだよね」、となってはいけないと思ったから、わたしたちは弁護団を結成しました。そうしたら、裁判費用を集めるクラウドファンディングにずいぶん応援があった。700万円以上集まりました。

佐藤)そうやって露骨な差別が目に見えるようになって、活動できる人たちが声を上げて、一般の方がクラウドファンディングでお金やコメントを出してくださったりする流れはいいことですよね。

かめいし)クラウドファンディングは双方向だから、いろんな応援メッセージをもらえるし、こっちから現状報告もできる。これまでもカンパで裁判をすることはあったけど、クラウドファンディングはすごく広く、いろんな人がコミットしてくれる。

わたしはタトゥー裁判の一審が有罪になってから、クラウドファンディングを始めました。一般的にはあまり共感されないテーマだと思うんですけど、それでも350万円くらい集まったんです。控訴審では、それまでお金がなくて諦めていた立証ができて、大阪高裁で逆転無罪判決をもらうことができました。

うち越)わたしたちがやったクラウドファンディングも、かめいしさんたちのがすごく励みになってたんですよ。

佐藤)あがってきた声を受け取って、次につなげていくのが政治家の役割だと思うし、これまでとても少なかった女性政治家たちに是非してほしいことだな、と思います。

かめいし)今まで声を上げられなかった人たちが集まって、声を上げる。それによって、多くの人が社会の問題に気づく。この流れを弁護士や政治家がエンパワメントしていきたいですよね。

うち越)わたしは選択的夫婦別姓の裁判に関わってきたのですが、2015年、最高裁での判決は「夫婦同姓は合憲」でした。その時、15人の裁判官のうち男性は12人、女性は3人しかいなかった。社会が変わっても、最高裁は変わってないと思った。また、弁護士では女性が2割を切っています。

社会の多様性に司法も国会も対応しないといけない。国会も男性ばかりで、女性議員比率はまだたったの1割ほどです。社会の変化をきちんと法律、制度に反映させるには、まずは議員数におけるパリテ(男女同数)が必要です。

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2019年、新しい日本社会をつくりたい

佐藤)最後に、社会をどんなふうに変えていきたいですか?

かめいし)元号も変わって新しい時代になります。日本は今、大きな転換点にあって少子化と高齢化が同時に進み、今まで「幸せ」とされていた生き方や働き方が成り立つ前提が崩れて来ている。例えば終身雇用や定年はもう維持が難しい、社会保障費もどんどん膨らんでいく。

価値観やライフスタイルが多様化し複雑になっていて、それと法律が合わないからいろんな裁判が起こっている。わたしたちは裁判の現場で感じる社会と法律の齟齬を実感している立場から、どのように新しい時代の課題に答えていくか。その解決策を出していきたい。

うち越)わたしが出会ってきたような、暴力や虐待を受けた人たちが希望を持てる社会にしたい。選択的夫婦別や同性婚など、個人のライフスタイルの選択を、国家が邪魔せず尊重する流れをつくっていきたいです。

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かめいし倫子 MICHIKO KAMEISHI
1974年、北海道小樽市生まれ。東京女子大学卒業後、通信会社勤務、大阪市立大学法科大学院を経て2009年に弁護士登録。刑事事件専門の法律事務所に入所し、これまでに担当した刑事事件は200件以上にのぼる。『クラブ風営法違反事件』や『GPS違法捜査事件』、『タトゥー彫り師医師法違反事件』など著名な刑事事件を担当。2016年に独立して「法律事務所エクラうめだ」を開設。著書に「刑事弁護人」(講談社現代新書)がある。

うち越さくら SAKURA UCHIKOSHI
1968年、北海道旭川市生まれ。東京大学教養学部、同大学教育学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。2000年に弁護士登録。離婚、DV、親子などの家族問題やセクシャルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性・子どもの人権にかかわる分野を専門とし、長年、児童相談所の嘱託弁護士を務めてきた。著書に「なぜ妻は突然、離婚を切り出すのか」(祥伝社新書)、「右派はなぜ家族に介入したがるのか 憲法24条と9条」(大月書店)、「レンアイ、基本のキ―好きになったらなんでもOK?」(岩波ジュニア新書)、「三訂版Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」(日本加除出版)などがある。